2026年10月20日

今回は、当院で行っている「パルス高周波療法」についてご説明します。
「神経ブロックを受けると痛みは楽になるけれど、しばらくすると元に戻ってしまう」
ペインクリニックで治療を受けている方の中には、このように感じている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
「パルス高周波療法」は、通常の神経ブロックとは異なる仕組みで働きかけ、より長く痛みを抑えることを目指す治療です。
■ 高周波治療とは
高周波治療は、痛みに関係している神経の近くに専用の針を進め、針先から高周波電流を流す治療です。高周波電流を利用して神経の痛みを伝える働きを遮断したり、調整したりすることで、痛みの軽減を図ります。
高周波治療には、大きく分けて2種類があります。
一つは、高周波電流によって神経を加熱・凝固し、痛みの伝達を遮断する「高周波神経焼灼術(RFN:Radiofrequency neurotomy)」です。
もう一つは、神経を熱で焼灼するのではなく、高周波電流によって神経の働きを調整する「パルス高周波療法(PRF:Pulsed radiofrequency)」です。
今回ご紹介するのは、後者のパルス高周波療法です。
■ どのような痛みに行うのか
パルス高周波療法は、神経に由来する慢性的な痛み、特に神経ブロックによって一度は症状が改善するものの、その効果が長続きしない場合に検討する治療です。
当院では、主に頚椎神経根症や帯状疱疹に関連した神経痛に対して行っています。
【頚椎神経根症】
代表的な対象疾患の一つが頚椎神経根症です。
頚椎の変形や椎間板ヘルニアによって頚椎神経が圧迫・刺激されると、首から肩甲骨、腕、手指にかけて痛みやしびれが生じます。
このような症状に神経ブロックを行うと、一度は痛みが軽くなるものの、短期間で戻ってしまうことがあります。その場合には、パルス高周波療法を行い、より長い鎮痛効果を目指します。
頚椎神経根症に対するパルス高周波療法の有効性は、多数の臨床研究で報告されています[5、6]。
【帯状疱疹・帯状疱疹後神経痛】
もう一つ、当院でパルス高周波療法を行うことが多いのが、帯状疱疹や帯状疱疹後神経痛です。
帯状疱疹では、皮疹が治った後も、焼けるような痛みが慢性的に残ることがあります。衣服が触れただけでも痛む(アロディニアと言います)こともあり、睡眠や日常生活に大きな支障を来します。
飲み薬や通常の神経ブロックだけでは改善が不十分な場合には、パルス高周波療法が治療の選択肢となります。
帯状疱疹に関連した神経痛に対するパルス高周波療法の有効性も、複数の臨床研究で確認されています[7–10]。
このほか、肋間神経痛やその他の末梢神経に由来する痛みに対しても、症状や神経ブロックの効果を確認しながら治療を検討します。
ただし、痛みのある場所にパルス高周波を行えば、必ず効果が得られるというわけではありません。どの神経が痛みに関係しているのかを、診察と先行して行う神経ブロック(テストブロック)によって見極めることが重要です。
■ パルス高周波療法の実際
当院では、パルス高周波療法を検討する際、原則として先行して神経ブロック(テストブロックと言います)を行い、対象となる神経が痛みに関与しているかを確認しています。
テストブロックによって痛みが明らかに軽くなれば、その神経が痛みの発生や伝達に関係している可能性が高くなります。テストブロックが有効で、しかしながら鎮痛効果が短時間にとどまる場合に、より長い効果を目指してPRFへの移行を検討します。
実際に治療する際には、エコーで神経や周囲の血管、筋肉などを確認しながら、専用の針を目的となる神経の近くまで進めます。
エコーを使用することで、神経と周囲組織の位置関係をリアルタイムに確認し、血管などを避けながら針を進めることができます。
針先の位置を確認した後、高周波電流を流します。
「高周波治療」と聞くと、神経を高温で焼く治療を想像されるかもしれません。しかし、PRFは神経を熱で凝固・焼灼することを目的とした治療ではありません。
高周波電流を流すと熱が発生しますが、PRFでは針先の温度を42℃以下に保ちながら通電します。これにより神経の機能を温存しながら、その鎮痛効果を発揮することを目指します。
この点が、神経を熱で凝固させる高周波神経焼灼術との大きな違いです。
また、PRFは神経を焼灼しないため、運動神経を含む神経に対しても適用を検討できます。ただし、神経障害の危険性が完全になくなるわけではなく、治療部位や周囲の解剖学的構造を十分に考慮する必要があります。
■ パルス高周波療法が痛みを和らげる仕組み
パルス高周波療法が痛みを和らげる仕組みは、まだ完全には解明されていません。
現在は、高周波電流によって針先の周囲に形成される「電場」が神経に作用し、神経が痛みを伝えるメカニズムを変化させると考えられています[1、2]。
その作用には、いくつかの仕組みが関係していることが示されています。
① 過敏になった神経の興奮を調整する
神経細胞の表面には、ナトリウムやカルシウムなどのイオンの出入りを調節する「イオンチャネル」が存在します。
神経の損傷や炎症はイオンチャネルの働きを変化させ、神経が過剰に興奮しやすくなることがあります。
その結果、何もしていないのに痛む、軽く触れただけでも痛いといった症状が生じます。
PRFによって形成される電場は、イオンチャネルの機能の正常化に影響を与えることで、神経細胞の興奮性を調整することができると考えられています[3、4]。
つまり、神経の信号を完全に遮断するのではなく、過剰な痛みの信号が発生しにくい状態へ調整することを目指す治療です。
② 脊髄における痛みの伝達を調整する
慢性的な痛みでは、痛みの原因となっている末梢神経だけでなく、脊髄側の神経も過敏になることがあります。
これは「中枢性感作」と呼ばれる現象です。
中枢性感作が起こると、通常であれば強い痛みとして感じないような刺激まで、強い痛みとして脳へ伝わりやすくなります。
PRFは、脊髄後角における痛みの情報伝達や、痛みを抑制する神経回路にも影響を及ぼす可能性が報告されています[3、4]。
このような作用によって、末梢から伝わる痛みの信号が脊髄で増幅される状態を抑え、痛みの軽減につながる可能性があります。
③ 神経の炎症反応を抑制する
慢性的な神経痛には、神経の損傷だけでなく、神経における炎症反応も関係しています。
神経が損傷すると、炎症性サイトカインと呼ばれる物質が産生され、痛みを伝える神経の興奮性が高まることがあります。
また、脊髄内のミクログリアと呼ばれる細胞の活性化も、痛みが長引く原因の一つと考えられています。
PRFによって炎症性サイトカインの発現やミクログリアの活性が変化し、神経炎症が抑制される可能性が報告されています[3、4]。
このような作用も、PRFによる鎮痛効果に関係していると考えられています。
【神経を破壊するのではなく、働きを調整する治療】
このように、パルス高周波療法は、神経を熱で破壊して痛みの伝達を止める治療ではありません。
神経の興奮性、脊髄での痛みの情報伝達、神経炎症などに働きかけ、過敏になった神経の状態を調整することを目指します。
このような作用は「ニューロモデュレーション(神経変調)」と呼ばれます。
なお、これらの作用機序は主に基礎研究から示されたものであり、実際の患者さんでどのように鎮痛効果が生じるかについては、現在も研究が進められています。

■ 治療の流れと当日の注意点
治療当日は、まず治療する部位を消毒し、局所麻酔を行います。
その後、エコー画像で神経と周囲の血管、筋肉などを確認しながら、高周波専用の針を神経の近くまで進めます。
針先が目的の位置に到達したら、微弱な電気刺激を行い、普段痛む場所に響く感覚があるか、意図しない筋肉の収縮が起こらないかなどを確認します。
これらの反応を参考にしながら針先の位置を調整した後、パルス高周波電流を一定時間通電します。
治療後は、体調やしびれ、筋力などに問題がないことを確認し、必要な安静時間を設けて終了となります。
治療後には、針を刺した部分の痛みや内出血が生じることがあります。また、一時的に普段の痛みが強くなることもあります。
多くは時間とともに軽快しますが、強い痛みやしびれ、筋力低下などが続く場合には、当院へご連絡ください。急激な筋力低下や進行する神経症状などが現れた場合には、速やかな医療機関の受診が必要です。
治療当日は、入浴、飲酒、激しい運動を控え、針を刺した部分を強く揉んだり刺激したりしないようにしてください。
まれではありますが、出血、感染、神経障害、血管損傷、局所麻酔薬による副作用などが起こる可能性もあります。
治療前には、内服薬や持病、特に血液を固まりにくくする薬の使用状況などを確認し、安全性を評価したうえで治療の適応を判断します。
■ このような方にパルス高周波療法を検討します
パルス高周波療法は、特に神経ブロックによって痛みが明らかに軽くなるものの、その効果が短期間にとどまる方に検討する治療です。
飲み薬や神経ブロックだけでは十分な改善が得られない方、痛みのために仕事や家事、睡眠に支障が出ている方、通常の神経ブロックより長い鎮痛効果を希望する方にとって、治療の選択肢となります。
一度の治療ですべての痛みがなくなるとは限りません。また、効果の現れ方や持続期間にも個人差があります。
しかし、薬を増やすことや、効果の短い神経ブロックを繰り返すことだけが、痛みを抑える方法ではありません。

これまでの治療で十分な改善が得られていない方にも、別の仕組みで痛みに働きかける治療があることを知っていただきたいと思います。
「神経ブロックは効くけれど、痛みがすぐに戻ってしまう」
そのような方は、パルス高周波療法が適応となるか、一度ご相談ください。
参考文献
1.Chua NHL, et al. Pulsed radiofrequency treatment in interventional pain management: mechanisms and potential indications—a review. Acta Neurochir (Wien). 2011;153:763–771.
2.Bogduk N. Pulsed radiofrequency. Pain Med. 2006;7:396–407.
3.Park D, Chang MC. The mechanism of action of pulsed radiofrequency in reducing pain: a narrative review. J Yeungnam Med Sci. 2022;39:200–205.
4.Sam J, et al. Pulsed radiofrequency in interventional pain management: cellular and molecular mechanisms of action—an update and review. Pain Physician. 2021;24:525–532.
5.Van Zundert J, et al. Pulsed radiofrequency adjacent to the cervical dorsal root ganglion in chronic cervical radicular pain: a double blind sham controlled randomized clinical trial. Pain. 2007;127:173–182.
6.Chalermkitpanit P, et al. Ultrasound-guided pulsed radiofrequency of cervical nerve root for cervical radicular pain: a prospective randomized controlled trial. Spine J. 2023;23:651–655.
7.Ke M, et al. Efficacy of pulsed radiofrequency in the treatment of thoracic postherpetic neuralgia from the angulus costae: a randomized, double-blinded, controlled trial. Pain Physician. 2013;16:15–25.
8.Makharita MY, et al. Ultrasound-guided pulsed radiofrequency in the management of thoracic postherpetic neuralgia: a randomized, double-blinded, controlled trial. Clin J Pain. 2018;34:1017–1024.
9.Wu CY, et al. Efficacy of pulsed radiofrequency in herpetic neuralgia: a meta-analysis of randomized controlled trials. Clin J Pain. 2020;36:887–895.
10.Chen J, et al. Efficacy and safety of pulsed radiofrequency combined with pregabalin for herpetic neuralgia: a systematic review and meta-analysis. Medicine (Baltimore). 2023;102:e33932.
