2026年8月25日

―薬だけでは届かない頭痛に、自律神経からアプローチ―
■ 頭痛はとても身近な疾患です
全国調査では、日本人の5人に1人は片頭痛か緊張型頭痛、もしくはその両方をもっていると報告されています[1]。頭痛は、日本人にとって非常に身近な病気と言えるでしょう。
頭痛が起きた際、多くの方は市販薬や処方薬を内服して済ませているのではないでしょうか。たまにしか起こらない頭痛なら、それで問題ないでしょう。しかし、習慣的に頭痛が起こる場合や頭痛薬があまり効かない場合は、繰り返す頭痛によって仕事や家事、通学に支障を来たし、生活の質を大きく損なってしまいます。
近年、頭痛治療は大きく進歩し、新しい予防薬も次々と登場しています。ただし、これらの薬がすべての頭痛のメカニズムに対応しているわけではなく、残念ながら万人に効果があるとは限りません。
頭痛の発生には、頚部や肩のこり、自律神経の緊張なども複雑に絡み合っています。そのため、薬物療法だけでは改善しきれない頭痛には、多面的なアプローチが効果を発揮することがあります。
当院では、星状神経節ブロック(SGB)や後頭神経ブロックといったペインクリニックならではの治療を他の治療と組み合わせ、頭痛が起こる頻度を減らすことを目指しています。今の治療で効果を感じられない方は、ぜひ一度ご相談ください。
■ 危険な頭痛には注意が必要です
頭痛の原因は、片頭痛や緊張型頭痛だけでなく、くも膜下出血、脳出血、髄膜炎など、命にかかわる病気が潜んでいる場合もあります。
これまで経験したことのない激しい頭痛が突然起こった場合や、手足の麻痺・しびれ、ろれつが回らない、発熱や意識障害などを伴う場合は、様子を見ずに速やかに救急医療機関を受診してください[2]。
■ 片頭痛とは
片頭痛と聞くと、「ズキンズキンする頭痛」をイメージする方が多いのではないでしょうか。ひどいときには吐き気や光・音への過敏を伴い、痛みのために身動きが取れなくなることもあります。痛み方は多様で、感じ方にも個人差があり、拍動性の痛みだけでなく、締め付けられるような痛みとして感じる方もいます。
片頭痛は、CGRPという神経ペプチドや三叉神経、自律神経、視床下部などが複雑に関わり合って起こる神経疾患と考えられています[3、4]。近年は、このCGRPの働きを抑える抗体薬も予防治療として使われるようになりました。日本で使用されている代表的なCGRP関連薬であるガルカネズマブの臨床試験では、約6割の方で片頭痛のある日が半分以下に減ったとの結果が出ています[5]。非常に効果的な治療といえますが、すべての方の片頭痛に有効というわけではなく、効果には個人差があります。
■ 緊張型頭痛とは
緊張型頭痛は、頭を締め付けられるような重だるい痛みが特徴です。長時間のデスクワークやスマートフォンの操作によって肩や首がこり固まり、そのまま頭痛につながるケースが典型的です。頭痛が慢性化すると、単なる肩こりにとどまらず、脳や脊髄で痛みを感じる仕組みそのものが過敏になる「中枢性感作」が関わることも分かっています[6]。そのため、長期間にわたる習慣的な緊張型頭痛では、鎮痛薬が効きにくいと感じることもあります。
■ 片頭痛と緊張型頭痛が重なることもあります
実際の診療では、片頭痛と緊張型頭痛をきれいに線引きできない方が数多くいらっしゃいます。普段は締め付けられるような頭痛でも、強くなると吐き気を伴ったり、首や肩のこりがひどくなった後に片頭痛のような症状が現れたりすることがあります。反対に、片頭痛のある方が発作のない日にも、首や肩のこりに伴う重い頭痛を感じることがあります。
当院では「片頭痛か緊張型頭痛か」という診断名だけでなく、頭痛の背景にある首や肩の筋緊張、後頭神経の関与、ストレスや不眠と関連する自律神経の状態まで含めて頭痛を評価しています。
■ 頭痛と自律神経の関係
自律神経は、心臓の動きや血管の状態、体温、発汗、胃腸の働きなど、多様な身体機能の調節に関わっています。自律神経には、体を活発にする「交感神経」と、体を休める「副交感神経」があり、この2つがバランスを取りながら全身の状態を整えています。
頭痛の一部には、この自律神経の機能が関係していると考えられています。もちろん、すべての頭痛を「自律神経の乱れ」だけで説明することはできません。しかし、首や肩のこり、精神的なストレス、睡眠の乱れによって頭痛が悪化する場合には、自律神経の乱れにも目を向けることが大切です。
当院では、頭痛の状態に応じて、自律神経に働きかける星状神経節ブロックも治療の選択肢としています。
■ 星状神経節ブロック(SGB)による頭痛治療
当院が頭痛治療に積極的に取り入れているのが、星状神経節ブロック(Stellate Ganglion Block:SGB)です。
星状神経節は首にある交感神経節の一つで、頭部や上半身の自律神経活動に関わっています。SGBでは、星状神経節の近くに局所麻酔薬を注入し、交感神経の働きを一時的に抑えます。これにより、首や肩の血行を改善したり、筋緊張を和らげたりする作用が期待できます。
当院では、習慣的に頭痛がある方、首や肩のコリを伴う方、疲労やストレスで頭痛が悪化しやすい方、薬物療法だけでは改善しきれない方などにSGBを行っています。
SGBを繰り返し行うことで、頭痛の強さだけでなく、頭痛による生活への支障や鎮痛薬の使用回数が改善したという臨床研究があります[7]。別の研究でも、SGBによって片頭痛の痛みの強さ、発作の頻度、持続時間が改善したことが報告されています[8]。
SGBの大きな特徴は、「今起きている頭痛をその場で止める」だけの治療ではないという点にあります。頭痛が起こる回数を減らし、以前より軽い痛みで済むようにすることを目指す治療です。
実際に、複数回のSGB施行により、「頭痛の回数が減った」「頭痛が起きても以前ほどつらくなくなった」「頭痛薬を飲む回数が減った」「首や肩が軽くなった」と感じる方も少なくありません。特に、頭痛に首や肩の痛み、後頭部痛、疲労感、睡眠の乱れを伴う方では、頭痛だけでなくこうした随伴症状も一緒に軽くなることがあり、当院ではその変化もあわせて確認しながら治療を進めています。
一度の治療で頭痛を完全になくすことは難しいですが、複数回施行することで頭痛に悩まされる日を少しずつ減らしていくのがSGBの治療効果です。
ただし、SGBはどのような頭痛にも効く万能な治療ではありません。頭痛のタイプや首・肩の状態、自律神経症状、現在の治療内容などを確認したうえで、適応を判断していきます。
■ 後頭部の痛みには後頭神経ブロックが有効です
当院では、頭痛治療のもう一つの柱として後頭神経ブロックも行っています。
後頭神経は、主に後頭部から頭頂部にかけての感覚を担う神経です。後頭部や頚部から始まる頭痛には、この神経が関わっていることがあります。
後頭神経が刺激されると、後頭部だけでなくこめかみや目の奥にまで痛みが広がることがあります。こうした場合、後頭神経の周囲に局所麻酔薬を投与することで、痛みの改善が期待できます。
慢性片頭痛を対象とした臨床試験では、後頭神経ブロックを定期的に行うことで、頭痛日数や片頭痛日数が減少したことが報告されています[9]。この試験では、ブロックを受けた方の40.9%で頭痛日数が半分以下に減ったのに対し、対照群では9.1%にとどまりました。
後頭神経ブロックは片頭痛だけでなく、後頭神経痛や頚部から後頭部にかけての痛みを伴う頭痛でも、治療の選択肢となります。
■ SGBと後頭神経ブロックを組み合わせた治療
頭痛には、自律神経の乱れとともに、頚部や後頭神経に由来する痛みが関与しているケースも多くあります。こうした場合には、症状に応じてSGBと後頭神経ブロックを組み合わせて治療することもあります。
当院では、頭痛の部位や痛み方、頚部・肩の状態、後頭部の圧痛、自律神経症状に合わせた治療を行っています。
鎮痛薬は今起きている頭痛を和らげるには有効ですが、繰り返す頭痛では、それだけでは十分に対応できないことがあります。星状神経節ブロックや後頭神経ブロックを症状に応じて組み合わせ、頭痛の発生頻度を減らすことで、日常生活の質の向上につながります。
これまでの治療で十分な改善が得られていない方は、SGBや後頭神経ブロックも治療の選択肢の一つとして考えてみませんか。「いつもの頭痛だから」とあきらめる前に、どうぞお気軽にご相談ください。
参考文献
1.Sakai F, Igarashi H. Prevalence of migraine in Japan: a nationwide survey. Cephalalgia. 1997;17:15–22.
2.Do TP, et al. Red and orange flags for secondary headaches in clinical practice: SNNOOP10 list. Neurology. 2019;92:134–144.
3.Ashina M. Migraine. N Engl J Med. 2020;383:1866–1876.
4.Goadsby PJ, et al. Pathophysiology of migraine: a disorder of sensory processing. Physiol Rev. 2017;97:553–622.
5.Stauffer VL, et al. Evaluation of galcanezumab for the prevention of episodic migraine: the EVOLVE-1 randomized clinical trial. JAMA Neurol. 2018;75:1080–1088.
6.Ashina S, et al. Tension-type headache. Nat Rev Dis Primers. 2021;7:24.
7.Hou J, et al. Real-time ultrasound-guided stellate ganglion block for migraine: an observational study. BMC Anesthesiol. 2022;22:78.
8.Yu B, et al. Ultrasound-guided stellate ganglion block for the treatment of migraine in elderly patients: a retrospective and observational study. Headache. 2023;63(6):763–770.
9.Chowdhury D, et al. Greater occipital nerve blockade for the preventive treatment of chronic migraine: a randomized double-blind placebo-controlled study. Cephalalgia. 2023;43:3331024221143541.
