低出力レーザー治療（LLLT／フォトバイオモジュレーション）

低出力レーザー治療（LLLT：Low-Level Laser Therapy、近年はPhotobiomodulation＝PBMとも呼ばれます）は、600〜1,000nm帯の赤〜近赤外光を痛みのある部位に照射し、細胞レベルで代謝や微小循環を整えることで筋肉や腱、関節の痛み、神経の興奮状態などを改善する治療方法です）[7,9]。
低出力レーザーの光エネルギーは細胞内でエネルギー代謝に関わるミトコンドリアに吸収されて細胞の働きを活性化することで効果を発揮します。[3,13] 同じレーザー治療器でも外科や美容皮膚科で用いている高出力レーザーのように組織を切開・焼灼するものではなく、非侵襲的に炎症の鎮静や組織修復を促進する治療機器です。[7]
照射中の不快感はほとんどなく、多くの方が「じんわりと暖かい」と感じるだけで、注射が嫌いな方や注射が難しい方でも受けやすい治療です。
当院ではまず診察で適応を慎重に判断し、必要に応じて画像検査や神経学的評価を行ったうえで薬物療法・神経ブロック・理学療法と組み合わせて施行しています。[1,10]

低出力レーザー治療のメカニズム

低出力レーザー治療機から照射されるのは、おおむね600〜1,000nmの波長をもつ赤色〜近赤外域の光で、組織での散乱や吸収が少ないため皮膚から数cmの深さまで透過することが可能です。[2] 組織深部まで届いた光は、細胞内にあるミトコンドリアに存在するシトクロムcオキシダーゼ（CCO）に吸収され、ミトコンドリアの機能を活性化することが報告されています。[3,13] ミトコンドリアはエネルギー産生のはじめとした多様な役割を果たしており、これが活性化されることで①細胞エネルギー代謝の効率化（ATP産生の増加）[3,6]、②一酸化窒素（NO）の放出による微小循環の改善[4,14]、③炎症性メディエーター（例：PGE₂、TNF-αなど）の放出抑制[5,9]、④末梢神経の興奮性の抑制[17]、といった効果をもたらします。[7] その結果、レーザー治療により「患部が軽くなり動きやすくなる」といった短期的な効果と、抗炎症・組織修復に伴う長期的な持続効果があるとされています。[6,8]

臨床で期待できる効果と実感の出方

当院で期待する主な効果は疼痛やしびれの軽減、筋緊張の改善、炎症の抑制と創傷治癒の促進、運動機能や可動域の改善です。[1,10] 多くの患者さんは初回〜数回の照射で短期的な変化（動きやすさ、重だるさの軽減）を感じ、継続して4〜6回ほど行うことで日常活動の改善などより持続的な効果を得る傾向があります。[11,12] 特に慢性化した痛みでは単回では不十分なことが多く、週1〜2回の照射を数週続けながら反応を見て頻度を調整するのが一般的です。[8,12]

治療の進めかた

診察で痛みの原因、範囲を確認し、LLLTの適応を判断します。必要なら神経ブロックを先行して行い、併用する形でLLLTを導入することが多いです。LLLTは週1〜2回を目安に開始し、1回5〜10分程度の治療時間で反復して行っていきます。[8,12]
当院では痛みのタイプに応じて治療を行っております。

自律神経節（星状神経節近傍）

頸部前方から星状神経節に向けて照射し、自律神経の過緊張・血流低下の是正を狙います。[7]

筋・腱（付着部を含む）

トリガーポイントや腱付着部をカバーするように照射し、疼痛—筋緊張—血流低下の悪循環を断ちます。[10]

末梢神経

症状に一致する神経走行上をライン状に追って照射し、神経興奮性の低減と微小循環の改善を図ります。[17]

注射（ブロック）との使い分け

ブロック注射は即効性があり、強い痛みや急性症状に有効です。一方でLLLTは非侵襲的に循環や炎症、神経興奮を抑える作用がありますが、1回の効果はさほど強くありません。当院では「急性期は注射で速やかに痛みを下げ、LLLTで補助する」という治療方針を基本としています。[7,11]
注射を避けたい方、抗凝固薬を内服している方、長期維持管理を希望する方にはLLLTを最初から施行する場合があります。

安全性と注意点

LLLTは有害事象が殆どない安全性の高い治療です。照射した部位の軽度の熱感や一過性のだるさ、稀に皮膚の紅斑やかゆみを生じることがありますが短時間で回復します。眼球への直接照射はできず、光過敏症の方や光感受性を増強する薬（例：ある種の抗菌薬や一部の抗がん剤）を服用中の方、活動性の悪性腫瘍が疑われる部位への照射は慎重に判断します。内服薬や既往歴は診察時に必ず申告してください。小児や高齢の方でも基本的には治療可能です。[7,9]

効果の持続性とその後の管理

鎮痛作用や循環の改善効果は数日持続することが多く、抗炎症・組織修復に基づく変化はより長期的な効果があります。治療効果はさほど強くないため持続的な維持照射が重要です。治療初期は週2回程度、その後は週1回程度の頻度で照射を行うと最も治療効果を実感しやすいことが多いです。[8,12] 症状の推移を見ながら治療期間を検討し、十分でなければ治療計画を見直し必要時に応じて神経ブロックや高周波パルス療法を組み合わせて行うことがあります。

当院で用いる機器（スーパーライザーEX）について

当院で使用する東京医研「スーパーライザーEX」は、600〜1,000nm（赤色〜近赤外線帯）の光を用い、最大10Wのパルス照射が可能な機器です。高いピーク出力がありますが、パルス制御により平均出力は安全域にコントロールされており、組織を損傷することなく深部まで十分な光を届けることが可能です。[2,7] そのため皮下の筋・神経、さらには星状神経節など比較的深いターゲットでも治療をすることが可能です。
当院では2本の照射プローブを併用できるため、比較的広い範囲や首と肩、腰と臀部など複数の部位を効率よく同時にケアできます。症状や体質に合わせて照射部位や時間を調整し、経過を見ながら最適な治療を行っていきます。施術直後に「動きやすい」「軽くなった」と感じる方もいれば、数回でじわじわと改善を実感する方もいます。

なぜ当院がLLLTをおすすめするか

LLLTは非侵襲的に循環・炎症・神経興奮に同時に働きかける治療機器で、ペインクリニック領域では古くから使用されています。他の治療手段と異なる治療メカニズムを持つため、神経ブロックや高周波パルス療法などと組わせて行うと相乗効果が期待できます。[1,10]
また神経ブロックと違い針を刺す必要が無いため、治療に伴う痛みがなく、多くの方に安全に治療を行うことが可能です。適用疾患も広いため、さまざまな痛みに用いることができます。[16]
当院ではLLLTを自費診療で行っております（1,650円/5分〜）。ご不明な点があれば当院スタッフまでお伝えください。