硬膜外ブロック
硬膜外ブロック

硬膜外ブロックは、ペインクリニックで広く行われる代表的な神経ブロックのひとつです。背骨の内側にある「脊髄」の周囲にある「硬膜外腔」と呼ばれるスペースへ局所麻酔薬や少量の抗炎症薬を投与し、短時間で痛みを抑え、神経の炎症や過敏さを軽減することができます。[1] 脊髄には多くの神経が集まっているため、薬の内服や湿布、リハビリだけではなかなか改善しない慢性的な痛みに対し、痛みの悪循環を断ち切り、疼痛レベルを下げ、生活の質(QOL)を大きく改善することができます。[2] 硬膜外ブロックは鎮痛効果は非常に強い治療法で、手術麻酔にも用いられるほど信頼性の高い手法です。
また、自律神経(とくに交感神経)の緊張を緩和する作用もあり、血流を改善し、冷えや筋肉のこわばりも軽減する効果があります。[3]
当院では、日本ペインクリニック学会認定専門医・日本麻酔科学会指導医の資格を持ち、硬膜外ブロックの経験が豊富な医師が、痛みが少ないよう最大限配慮しながら、患者さんの症状に応じて最も効果的で安全な方法で硬膜外ブロックを行います。
湿布やリハビリによる治療は基礎的な治療として重要ですが、強い神経痛や慢性化した痛みには十分な効果が得られないケースもあります。当院の硬膜外ブロックは、こうした「薬だけでは治らなかった痛み」に対して、神経そのものに直接アプローチするため、即効性が期待できるのが大きな特徴です。[4]
脊柱管狭窄症や椎間板ヘルニアで強い痛みがあると、「手術しかないのでは」と考える方も少なくありません。しかし手術は身体的・経済的負担が大きく、入院やリハビリも必要になります。当院で行う硬膜外ブロックは外来で数分で行える低侵襲な治療で、入院も不要です。「できる限り手術は避けたい」「生活に支障をきたす痛みを和らげたい」という方にとって、重要な選択肢となります。[5]
整骨院では筋肉の緊張を和らげる施術が行われます。しかし、整骨院の施術は医学的な診断に基づいたものではなく、あくまで対症的で神経そのものへの治療は行えません。医師のみが施行できる硬膜外ブロックは、神経や脊髄に直接作用する治療であり、整骨院で改善しなかった痛みにもアプローチできます。[6]
硬膜外ブロックには、(1)鎮痛、(2)神経興奮(中枢性感作)のリセット、(3)自律神経ブロック、という3つの効果があります。単なる「痛み止め」ではなく、脊髄に作用して痛みの回路そのものに働きかける治療です。
局所麻酔薬や抗炎症薬が鋭い痛みやしびれを和らげます。[1]
長引く痛みで神経が過敏になっている状態を一時的に遮断し、痛みのしきい値を正常化させます。これにより痛みの悪循環を断ち切り、内服薬やリハビリの効果を高めます。[2]
交感神経の緊張を緩め、血流を改善し、筋肉のこわばりや冷えを軽減します。血流改善の効果が出るまでに2~3日かかることもあります。即効性はないものの、長期的な作用が期待できます。[3]
硬膜外ブロックは1回の施行で症状の改善が期待できる治療ですが、状況や病態によっては複数回の施行を行うことがあります。その場合、特に治療初期には短期間での繰り返し施行が効果的です。[7]
これらの作用により、硬膜外ブロックは特に「坐骨神経痛」「術後の長引く痛み」「交通事故後の神経痛」など、日常生活に強く支障をきたす痛みに対して有効です。急性の激しい痛みを和らげるだけでなく、慢性化してしまった神経の異常な興奮を落ち着かせ、生活の質を取り戻す助けとなります。
硬膜外ブロックは以下のような幅広い症状に用いられます。
特に、薬の内服だけでは十分に改善しない痛みがある方、腰や足のしびれで歩行がつらい方、手術後に長引く痛みに悩んでいる方、神経痛によって日常生活の質が低下している方に適しています。また、「できる限り手術は避けたいが、なんとか痛みを和らげたい」という方にとっても大切な選択肢となります。[4]
硬膜外ブロック注射は外来で行える注射治療です。施術時間自体は数分程度で、入院の必要はありません。
症状を確認し、硬膜外ブロック注射が有効かどうかを判断します。手技の順序、痛みの程度、合併症や副作用について説明を行います。疑問を感じた場合は遠慮なく質問してください。
ブロックを行う際は、処置ベッドの上で横向きに寝て両膝を両手で抱え込み、背中を丸めた体勢をとります(体育座りのような姿勢)。場合によっては事前にエコーを用いて穿刺部位の確認を行うこともあります。背中を消毒後、最初に局所麻酔薬を注射し、その後の手技はほとんど無痛で行えます。ブロック用の針を進める途中で痛みを感じた場合はその都度局所麻酔を追加し、なるべく痛みが少ないよう配慮します。針が硬膜の外側(「硬膜外腔」と呼ばれます)に到達したら、局所麻酔薬を注入し、針を抜いて終了です。
ブロック注射後は15分〜1時間程度安静にし、効果の程度や副作用がないか確認します。脊髄には痛覚神経だけでなく運動神経も存在するため、施行後は一時的に脱力や麻痺を感じることがあります。また、内臓神経や交感神経をブロックすることで血流を改善し血圧を下げる効果もあります。当院では、施行後に15分~1時間ほどベッドでお休みいただき、その後、回復具合を確認し、歩行に問題がないことを確認してからお帰りいただきます。
1回のブロック注射で大きな効果が得られる方もいますが、痛みが強い場合は複数回の治療が必要になることがあります。多くの場合、1〜2週間に1回のペースで数回行い、症状を見ながら治療を進めます。効果の持続は個人差がありますが、治療を繰り返すことで神経の炎症が落ち着き、痛みが和らぎやすくなります。
当院では硬膜外ブロックを行う際には事前の確認を行い、できる限り安全性を高めてから施行いたします。
血小板数や凝固機能を採血で確認し、硬膜外血腫の発生を予防します。数値に異常がある場合は、お薬の調整や施行時期の見直しが必要です。
発熱・風邪症状・皮膚の化膿・歯科感染(歯肉の腫れ等)がないかを確認します。糖尿病などの易感染性が高い状態では、まず血糖コントロールを優先し、改善後に施行します。これは硬膜外膿瘍のリスク低減のために重要です。
抗凝固薬(ワルファリン、DOAC等)や抗血小板薬(アスピリン、クロピドグレル等)の内服状況を確認します。これらは出血リスクを高めるため、処方元(主治医)と連携して休薬の可否・期間を決めます。自己判断で中止しないでください。心筋梗塞や脳梗塞の再発予防など、継続が必要な場合があります。
硬膜外ブロックは多くの方にとって安全性の高い治療法ですが、リスクがゼロではありません。治療を受けるにあたり起こり得る副作用や合併症を詳しく説明します。
薬が神経に作用するために一時的に出ることがあります。通常は数時間で改善します。
交感神経のブロックにより血圧が下がることがあり、ふらつきや気分不快を伴うこともあります。
穿刺による刺激で生じる一時的なものが多く、数日以内に改善します。
発熱・背中の痛み・手足のしびれや麻痺などの症状が出る場合があります。糖尿病や全身感染があるとリスクが高まります。必要に応じて抗菌薬投与や外科的治療が行われます。
硬膜外腔に血がたまることがあります。抗凝固薬や抗血小板薬を服用中の方ではリスクが上がります。血腫が神経を圧迫すると緊急手術が必要になる場合があります。
本来は硬膜の外に針をとどめますが、まれに硬膜を貫いてしまうことがあります。その場合、脳脊髄液が漏れ出すことで強い頭痛が出ることがあります。多くは安静や水分補給で改善しますが、重い場合は「ブラッドパッチ」という処置を行います。
局所麻酔薬やステロイド薬に反応して発疹・かゆみが出る場合があります。極めてまれに呼吸困難や血圧低下を伴う重いアレルギー反応(アナフィラキシー)が起こることもあります。当院では事前にアレルギー歴を確認し、対応薬剤を準備します。
針先が神経に一時的に触れることで「ビリッ」とするような痛みやしびれが出ることがあります。多くは一過性ですが、ごくまれに後遺症が残ることも報告されています。エコーなどを用いることでリスクを減らしています。
副作用や合併症は非常にまれですが、完全に避けることはできません。治療を安全に行うため、事前の採血やお薬手帳の確認が欠かせません。異常があれば必ず医師・スタッフにお知らせください。
当院では、内服やリハビリ、整骨院の施術で改善しなかった痛みに対しても、硬膜外ブロックを用いて神経の炎症や興奮を抑え、痛みの悪循環を断ち切り、「痛みを確実に取る」ことを重視した治療を行っております。硬膜外ブロックを担当する医師はペインクリニック学会認定専門医、日本麻酔科学会認定麻酔科指導医(日本専門医機構認定麻酔科専門医でもあります)であり、豊富な臨床経験を持っておりますので、安心してブロックを受けていただけます。
専門医による安全で効果的なブロック治療で、手術に頼らず生活の質を取り戻すお手伝いをいたします。「薬を飲んでも良くならない」「手術は避けたい」「整骨院に通ったけれど改善しない」――そんな方は、ぜひ一度ご相談ください。
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