末梢神経ブロック
末梢神経ブロック

末梢神経ブロックとは、手足や顔などに走る「末梢神経」の周りに局所麻酔薬などを注射して、痛みの伝達を一時的に止める(ブロックする)治療法です。
飲み薬が全身に作用するのに対し、この治療は痛みの「発生源」のすぐ近くに直接アプローチするため、より強力で即効性のある鎮痛効果が期待できます。特に、「首や肩のこの範囲だけが痛い」「手足の腱鞘炎がつらい」といった、症状の範囲がはっきりしている場合にとても有効です。
末梢神経ブロックの目的は、一時的に痛みを取り除くだけではありません。長引く痛みが原因で過敏になった神経を「リセット」し、血流を改善することで、組織が本来持つ回復力を後押しする効果も期待できます。飲み薬やリハビリだけでは改善が難しい神経痛や慢性痛に対して、診断と治療を兼ねて行われる重要な治療法の一つです。
ケガをした直後の痛みは「急性痛」と呼ばれ、体からの重要な警告信号として働き、通常は短期間で治まります。これに対し、痛みが3ヶ月以上続く病的な状態を「慢性痛」と呼び、専門的な治療が必要になることが少なくありません。
慢性痛が起こるメカニズムは複雑ですが、その重要な仕組みの一つに「神経の過敏化」があります。これは痛みを伝える神経そのものが興奮しやすい状態になることで、医学的には「神経感作(しんけいかんさ)」と呼ばれます。
この状態になると、以下のようなつらい症状が現れます。
痛覚過敏…少しの刺激でも非常に強い痛みとして感じてしまう。
アロディニア…服がすれる、風が当たるといった本来痛くない刺激さえも、痛みとして感じてしまう。
末梢神経ブロックは、この過敏になった神経を局所麻酔薬で一時的に「リセット」することで、興奮の悪循環を断ち切り、神経を正常な状態に戻すきっかけを作ります。これこそが、末梢神経ブロックが慢性痛に有効な大きな理由です。
末梢神経ブロックは、主に以下の3つの仕組みで痛みを和らげます。
以下のように、末梢神経ブロックは単なる「痛み止め」ではなく、痛みの原因となっている病態そのものを改善に導く治療法です。
痛みを伝えている神経に直接作用し、その信号を止めます。これにより、注射後すみやかに痛みが和らぎます。
痛みが続くと、交感神経が緊張して痛む場所の血流が悪くなります。血流が悪化すると、さらに痛みを強くする物質がたまり、悪循環に陥ります。末梢神経ブロックは痛みを和らげることで交感神経の緊張を解き、血流を改善させる助けとなります。
神経やその周りで炎症が起きている場合は、抗炎症作用のあるステロイド薬を少量加えることがあります。これにより、神経の腫れや炎症を直接抑え、痛みを軽減します。
当院では、安全で質の高い治療を提供するため末梢神経ブロックを行う際は原則として超音波(エコー)装置を使用します。
かつて神経ブロックは、医師の経験と解剖学の知識を頼りに行われていました(ランドマーク法)。これも確立された医療技術ですが、近年はエコーを用いることで、神経やその周りの血管、筋肉などをリアルタイムの画像で見ながら治療ができるようになり、安全性が飛躍的に向上しました。
エコーを使うことで、針の位置を常に目で確認しながら治療できるため、血管や神経、重要な臓器を傷つけるといった合併症のリスクを限りなくゼロに近づけることができます。
また、神経の走り方には個人差がありますが、エコーガイド下なら一人ひとりの体の構造に合わせてピンポイントで薬を届けることができます。これにより、最小限の薬量で最大の効果が期待でき、何度も針を刺し直す必要がなくなるため、処置に伴う痛みも軽減できます。
当院では経験豊富なペインクリニック専門医が、このエコー技術を駆使し、安心・安全なブロック治療を提供します。
末梢神経ブロックは、痛みの原因や場所に合わせて様々な神経を治療の対象とすることで、幅広い痛みやしびれに対応できます。
帯状疱疹の急性期の激しい痛みから、発疹が治った後も続くつらい神経痛まで、神経ブロックは非常に重要な治療法です。
肩や首に分布している神経や、筋肉の痛みの原因となる筋膜を狙ってブロックを行います。特に筋膜への注射(筋膜リリース)は、エコーガイド下で高精度に行うことが可能です。
手首や肘で神経が圧迫されて起こるしびれ(手根管症候群など)や、胸郭出口症候群などの痛みに対し、原因となっている神経を直接治療します。
肋骨に沿って走る鋭い痛みを、素早く和らげることが可能です。
坐骨神経痛など、痛みの場所や原因に応じて様々なブロック注射が可能です。
手術後に長期間続く痛みや、ケガの後に残る痛みに対しても、神経ブロックが有効な場合があります。
末梢神経ブロックは外来にて短時間で行うことができます。
まず、症状や診察所見から痛みの原因となっている神経を推定します。安全な治療のため、血液をサラサラにするお薬を飲んでいるかなども必ず確認します。
診察結果をもとに、治療の具体的な手順や期待される効果、副作用などについて分かりやすく説明し、ご納得いただいた上で治療に進みます。
処置台に横になっていただき、注射する場所を消毒します。エコーで神経の位置を正確に確認しながら、局所麻酔薬などを注入します。処置自体は、通常5分程度で終わります。
処置後は院内でしばらくお休みいただき、痛みの変化や体調に問題がないかを確認してからご帰宅いただきます。
多くの場合、注射の直後から痛みが和らぐのを実感できます。この効果は数時間から数日間続きます。大切なのは、この痛みが和らいでいる「楽な時間」を利用して、リハビリを進めたり、十分な睡眠をとることで、良い循環を作っていくことです。治療を繰り返すうちに、痛みが徐々に軽くなり、効果の持続時間も長くなることが期待できます。
症状によりますが、治療の初めは1週間に1回以上のペースで数回行い、効果が残っているうちに次のブロックを行うことで、より良い治療効果を目指します。
当日は、感染予防のため入浴は控え、シャワーのみとしてください。また、激しい運動や過度の飲酒も避けていただくようお願いしています。ブロックした場所によっては、一時的に感覚が鈍ったり力が入りにくくなったりすることがあるため、当日の車の運転は控えていただく場合があります。
専門医が適切な手順で行う限り、非常に安全性の高い治療ですが、注射に伴う副作用のリスクがゼロではありません。
注射した場所の痛みや内出血、局所麻酔薬による一時的なしびれや脱力、緊張による血圧低下やめまいなどがありますが、多くは自然に回復します。
感染や神経の損傷、局所麻酔薬中毒などが報告されていますが、非常に稀です。当院では、清潔操作の徹底やエコーガイドの使用により、これらのリスクを最小限にするよう努めています。
長引く痛みやしびれは、日々の生活の質を大きく下げ、気持ちまで滅入らせてしまいます。「この痛みと一生付き合っていくしかない」と諦めてしまう前に、ぜひ一度ペインクリニックにご相談ください。
末梢神経ブロックは、痛みの悪循環を断ち切り、ご自身の体が持つ回復力を引き出すための強力な後押しとなる治療法です。当院では、痛みの原因を正確に診断し、最新の技術で安全な治療を提供することをお約束します。
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