顔の痛み
顔の痛み

顔や口腔内、舌の痛みが気になり、なかなか良くならずに徐々に悪くなっていく、いろいろな病院や歯科にかかっても改善せず、最後には原因不明の痛みと言われる。このような顔面の痛みは非定型顔面痛と呼ばれます。
顔の痛み(顔面痛)は、食事、会話、洗顔など、日常のあらゆる場面で苦痛を伴うため、生活の質(QOL)を著しく低下させます。
顔には三叉神経という敏感な神経が張り巡らされており、歯、鼻(副鼻腔)、目、顎関節など多くの器官が集中しているため、診断が非常に難しい領域です。そのため、歯科、耳鼻科、脳神経外科などを転々とし、「原因不明」として長年苦しまれている患者様が少なくありません。
当院では、診断のつきにくい「非定型顔面痛(現在は『持続性特発性顔面痛』と呼ばれます)」に対し、ペインクリニック的な治療を提供しています。
顔の痛みは大きく分けて、原因や痛みのパターンがはっきりしている「定型的な痛み」と、原因が特定しにくい「非定型な痛み」の2つに分類されます。治療方針が全く異なるため、まずは正しい診断をつけることが治療の第一歩です。
「電気が走るような」「針で刺されたような」一瞬の激痛です。
数秒から長くても2分程度。痛みがない時間はケロっとしています。
洗顔、歯磨き、会話、食事、風が当たるなどの刺激で誘発されます。
脳の出口で血管が神経を圧迫していることが多く、MRIで確認できる場合があります。
抗てんかん薬(カルバマゼピン)が特効薬的に効きます。
「鈍い」「重苦しい」「うずくような」「じわじわする」「焼けるような」痛みが特徴です。
1日のうち長時間、あるいは一日中痛みが続きます。
明確なトリガーがないことが多く、疲労やストレス、天候で悪化する傾向があります。
検査で明らかな異常が見つからないことが多く、従来の痛み止めはほとんど効果がありません。
近年の国際分類では「持続性特発性顔面痛(Persistent Idiopathic Facial Pain: PIFP)」と定義されています。[1]
「検査で異常がない」ということは、「痛くない(気のせい)」ということではありません。
近年の脳科学の研究により、非定型顔面痛の背景には、「脳(中枢神経)のシステムエラー」が存在することが明らかになってきています。
きっかけとして多いのが、抜歯などの歯科治療、顔面の外傷などによる微細な神経の損傷です。神経からの正常な入力が途絶えると、脳へ信号を送る中継地点(三叉神経脊髄路核など)が過敏になり、痛みの信号を勝手に作り出して送り続けるようになります。これは「幻肢痛(失った手足が痛む現象)」と似たメカニズムです。
長期間痛みにさらされることで、脳や脊髄が興奮しやすくなり、痛みの「増幅装置」のようになってしまう状態です。通常なら痛みと感じない程度の刺激(触れるだけ、温かいだけ)を痛みとして誤認識したり、痛みの範囲が本来の場所から顔全体へと広がったりします。[2,3]
私たちの脳には、本来「痛みを抑えるブレーキシステム(下行性疼痛抑制系)」が備わっています。しかし、慢性的な痛みやストレス、不安、睡眠障害が続くと、このブレーキが効かなくなります。その結果、痛みをダイレクトに、あるいは増幅して感じてしまうようになります。[9]
顔の痛みには、命に関わる疾患や緊急処置が必要な疾患が隠れていることがあります。当院では「非定型顔面痛」と診断する前に、以下の疾患の可能性を慎重に除外します。
虫歯、歯髄炎、歯周病など。
頬の奥の痛み、鼻汁など。
こめかみの痛み、視力障害のリスクがある血管の炎症(高齢者に多い)。
発疹が出る前の痛み。
脳腫瘍などが三叉神経を圧迫していないか。
口が開かない、顎が鳴るなど。
必要に応じて、連携医療機関でのMRI検査や歯科受診をお勧めする場合があります。
非定型顔面痛や難治性の三叉神経痛に対し、一般的な鎮痛薬だけで対処するのは困難です。当院では、「神経ブロック」「高周波治療」「薬物療法」を組み合わせ、過敏になった神経システムを鎮静化させる治療を行います。
~自律神経を整え、脳の血流と視床下部機能を改善する~
顔の慢性痛治療において、当院が最も重視している治療の一つです。
首にある交感神経の集まり(星状神経節)に局所麻酔薬を注入し、一時的に交感神経をブロックします。自律神経の緊張を緩める事で、血流の改善、神経興奮の鎮静化、中枢性感作などの効果が期待できます。[5]
痛みの震源地となっている神経(眼窩下神経、オトガイ神経など)の周囲に、直接局所麻酔薬と抗炎症薬を注入します。神経の興奮を一時的に遮断することで、痛みの悪循環をリセットする効果が期待できます。
「ブロック注射の効果が長続きしない」「薬の副作用がつらい」という方に適した治療です。三叉神経の末梢枝にパルス状の高周波電流を通電します。神経を熱で破壊するのではなく、強力な電場(Electric Field)が神経細胞に作用し、痛みの伝達に関わる遺伝子の発現を抑制する「ニューロモジュレーション(神経変調)効果」をもたらします。副作用が極めて少なく、長期的な鎮痛効果が期待できるため、慢性化した顔面痛の有力な選択肢となります。[6,7]
近赤外線を星状神経節や痛む部位に照射します。痛みや熱さは全くありません。交感神経の緊張を緩和し、血流を改善するとともに、細胞内のミトコンドリアを活性化させて神経の修復を促します。注射が苦手な方や、補助的な治療として非常に有効です。[8]
通常の痛み止め(NSAIDs)が無効な場合が多いため、神経痛に対して使用する薬剤(抗てんかん薬や抗うつ薬)を主に使用します。[4]
また漢方薬には血流不全やストレス、筋肉の緊張などを緩和する作用があります。患者様の体質に合わせて処方します。
慢性的な顔の痛みは、不安やストレスによって増幅されます。「一生治らないのではないか」「また痛くなるのではないか」という破局的思考が、さらに脳を痛みに敏感にしてしまいます。当院では、痛みに対する考え方や対処行動を見直すアドバイスを行い、痛みに支配されない生活を取り戻すサポートをします。
顔の痛み、特に「原因不明」とされる非定型顔面痛は、周囲に理解されにくく、患者様を孤独にさせがちです。「気のせい」と言われたり、「精神的なもの」片付けられたりして、傷ついてこられた方も多いかもしれません。しかし、痛みがある以上、そこには必ず医学的な理由(神経の興奮、脳の感作、血流障害など)が存在します。当院では、画像には写らない神経の働きの異常に着目し、ペインクリニック専門医としての知識と技術を総動員して治療にあたります。
「痛みゼロ」にすることが難しい場合でも、痛みをコントロール可能なレベルまで下げ、笑顔で会話ができる、美味しく食事ができるといった「当たり前の日常」を取り戻すことは十分に可能です。
一人で抱え込まず、ぜひ一度当院にご相談ください。
慎重な判断が必要です。歯科的な異常(感染や炎症)がない場合、歯を抜いても痛みは止まらず、むしろ神経損傷が増えて痛みが悪化することがあります。
いいえ、必ずしもうつ病というわけではありません。一部の抗うつ薬(アミトリプチリンやデュロキセチンなど)には、脳内で痛みを抑える物質を増やし、鎮痛システムを強化する作用があるため、世界中で慢性痛の治療薬として標準的に使われています。
顔への注射(眼窩下神経ブロックなど)を行う場合もありますが、当院では首にある「星状神経節ブロック」を第一選択とすることが多いです。顔に針を刺さずに顔面の血流と神経過敏を改善できるため、患者様の負担が少なく効果的です。また、すべての注射は極細の針を用い、痛みに配慮して行います。
典型的な三叉神経痛で、血管による圧迫がMRIで明らかであり、薬が効かない・副作用が強い場合は、脳神経外科での手術(微小血管減圧術)やガンマナイフ治療が有効な選択肢となります。手術適応の可能性がある場合は、信頼できる専門病院へご紹介いたします。[10]
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