高周波パルス療法
高周波パルス療法

高周波治療は、飲み薬や通常の神経ブロック注射では効果が一時的、あるいは不十分であった難治性の痛みに対して、より根本的な治療選択肢となります。
長引く慢性的な痛みの原因となっている神経に、特殊な針(電極針)を通して「高周波電流(Radiofrequency)」という電気エネルギーを作用させ、神経の働きを長期間にわたって遮断または調整する治療法です。
手術のようにメスで体を切開する必要はなく、局所麻酔を用いて外来で行える「低侵襲治療」であることが大きな特徴です。体への負担が少なく、入院も不要なため、日常生活への影響を最小限に抑えながら、長期的な痛みの改善を目指すことができます。
この治療法には、神経を「凝固」させる方法と、「調整」する方法の大きく2種類があり、痛みの種類や原因、対象となる神経の性質に応じて専門医が最適な方法を選択します。
高周波熱凝固療法(RFA)は、痛みの感覚だけを伝えている非常に細い神経(感覚神経)をターゲットにする治療法です。専用の電極針の先端を70~90℃前後の高温にすることで、神経組織のタンパク質を熱で変性させ、痛みの信号が脳へ伝わる経路を物理的に長期間「遮断」します。
当院では超音波(エコー)ガイド下に、針の位置をミリ単位で正確にモニタリングしながら行います。熱が作用する範囲は針先の周囲数ミリに限られるため、周辺の重要な組織や血管などへの影響を最小限に抑えつつ、目的の神経だけを選択的に治療することが可能です。[1] アルコールなどを用いた従来の神経破壊ブロックと比較して、作用範囲のコントロールが格段に容易で、安全性が高いのが利点です。効果は数ヶ月から長い方では1年以上持続することが期待できます。
パルス高周波療法(PRF)は、神経を熱で破壊(凝固)しない「非破壊的」な治療です。針先の温度を体温に近い42℃以下に保ちながら、1秒間に2回(2Hz)、0.02秒という非常に短い時間だけ高周波電流を断続的(パルス状)に流します。
この治療の鍵は、熱ではなく、電流が断続的に流れることで生じる「電場(electric field)」です。この電場が、過敏になってしまった神経細胞に働きかけ、興奮性を鎮めて痛みの感じ方を正常な状態へと調整します。このプロセスはニューロモジュレーション(神経変調)と呼ばれ、神経の構造を傷つけることなく、機能だけを変化させ長期的な鎮痛効果を目指します。[2]
熱による神経破壊を伴わないため、運動神経麻痺や筋力低下、感覚鈍麻といった副作用のリスクが極めて低く、神経根や三叉神経といった重要な神経にも安全に適用できます。また、痛みが再発した場合でも繰り返し治療が行いやすいという利点もあります。
高周波治療がなぜ長期にわたって効果を発揮するのか、そのメカニズムはRFAとPRFで異なります。
RFAは痛みを伝える神経を熱で変性させ、痛みの信号が脳に伝わらないようにする治療法です。これにより、脳が痛みを感じなくなり、強力で持続的な鎮痛効果が得られます。変性した神経は時間をかけて再生しますが、それまでの長い期間、痛みのない生活を送ることが可能になります。[3]
RFAでは、針先の周囲にごく小さな高熱帯を発生させ、痛みを伝える細い神経線維(C線維やAδ線維)を選択的に変性させます。これにより痛み情報の伝達経路が「途切れる」ため、痛みの入力が大きく減少すると考えられています。この「選択的な遮断」により、痛みを和らげるだけでなく、「痛くて動かせない」といった状態を改善し、リハビリを進めやすくすることも大きな利点です。
PRFは、単に信号を止めるのではなく、痛みのシステム全体を正常化するように働きかけます。その作用は多岐にわたります。
神経細胞には、電気信号の出入り口であるイオンチャネルがあります。PRFが生み出す電場は、このチャネルの働きを調整し、神経の異常な興奮を起きにくくします。[4]
慢性痛の状態では、脊髄の神経細胞が痛みを「学習」し、過敏な状態になっています。PRFの刺激は、この過敏な記憶を打ち消すような反応を脊髄内で引き起こし、神経の過敏状態を和らげることが可能です。[5]
PRFは、神経の炎症を引き起こす物質の産生を抑制することで、神経周囲の環境を整え、痛みを鎮めます。帯状疱疹後神経痛のように、神経そのものが炎症を起こしているタイプの痛みに特に有効と考えられています。
私たちの脳には、痛みを抑える信号を送る「下行性疼痛抑制系」という、いわば痛みブレーキのシステムが備わっています。PRFの刺激は、このブレーキシステムを活性化させ、体自身が持つ鎮痛能力を高めます。
PRFでは、治療直後から痛みがゼロになるというよりも、「数日から数週間かけて少しずつ痛みが和らぐ」という経過をとることが多く、これは神経のネットワークがゆっくりと再調整されていくプロセスを反映していると考えられます。
要約すると、RFAは「痛みの伝達路を選択的に遮断する」ことで強力な鎮痛をもたらし、PRFは「痛みシステム全体の感度を正常化する」ことでじわじわと痛みを和らげていきます。当院では痛みのメカニズムに応じてどちらを選択するか、ペインクリニック専門医が個別に判断します。
高周波治療は、特に薬物療法や神経ブロック注射で効果が不十分、または持続しない難治性の慢性痛に対して優れた効果を発揮します。
原因となっている神経根や末梢神経にPRFを行うことで、痛みが著明に軽減することが複数の臨床研究で報告されています。[6,7]
頚椎症が原因の腕の痛みやしびれに対し、頚椎神経根部へのPRFは有効性が高く、多くの臨床研究で証明されています。[8]
変形性膝関節症や四十肩・五十肩の長引く痛みに対し、関節の感覚を伝える神経にRFAやPRFを行うことで、痛みを和らげ、リハビリを進めやすくなります。[9]
体を反らしたり捻ったりすると痛む椎間関節性腰痛や、お尻のあたりが痛む仙腸関節性腰痛は、RFAが特に有効です。[1]
その他、顔面の激痛である三叉神経痛や、椎間板が痛みの原因となっている腰痛(椎間板内PRF)など、様々な難治性疼痛が治療の対象となります。
当院では、高周波治療を安全かつ効果的に行うため、以下のように慎重に治療を進めています。
詳細な問診と診察、画像所見などから、痛みを伝達している神経(責任神経)を絞り込みます。
高周波治療は責任神経を正確に治療することが重要です。そのため、本番の治療の前に、責任神経の候補に少量の局所麻酔薬を注射する診断的ブロックを行います。このテストで痛みが一時的にでも改善すれば、高周波治療による長期的な効果が大いに期待できます。
治療当日は、まず治療部位を消毒し、十分な局所麻酔を行います。その後、画像ガイド下に電極針を目的の神経まで正確に誘導します。針先が最適な位置にあることを確認するため、微弱な電気を流して「いつも痛い場所と同じところに響きを感じるか」などを確認してから、RFAまたはPRFを開始します。治療後は院内でしばらく安静にしていただき、体調に問題がないことを確認してからご帰宅いただきます。
治療部位には十分に局所麻酔を行いますので、治療中の痛みは最小限です。治療後、数日間は針を刺した部位に鈍い痛みが残ることがありますが、鎮痛薬でコントロール可能です。
個人差や疾患によりますが、一般的にRFAは6ヶ月~1年以上、PRFは3ヶ月~半年程度の効果持続が期待されます。痛みが再発した場合でも、再度治療を行うことが可能です。
重篤な合併症は非常に稀です。起こりうるものとして、注射部位の内出血や痛み、一時的なしびれ感などがありますが、多くは数日で自然に軽快します。当院では画像ガイドや電気刺激テストを徹底し、神経損傷などのリスクを最小化しています。
治療する部位や疾患によりますが、椎間関節や末梢神経に対する高周波熱凝固療法など、一部は保険適用となっています。パルス高周波療法など保険適用外の治療については、事前に費用を明確にご説明し、ご納得いただいた上で治療を行います。
高周波治療は、このような深刻な悩みをお持ちの患者さんのために開発された、科学的根拠に基づく先進的な治療選択肢です。痛みの原因に直接アプローチし、その悪循環を断ち切ることで、失われた日常を取り戻す大きなきっかけとなり得ます。
当院では、ペインクリニック専門医が、診断的ブロックによる正確な原因究明から、安全性を最優先した精密な高周波治療を行っております。
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