帯状疱疹・帯状疱疹後神経痛
帯状疱疹・帯状疱疹後神経痛

帯状疱疹は、まず前ぶれとして皮膚のピリピリ・チクチク、ヒリヒリ、ズキズキする痛みが出て、衣服がこすれるだけでも強く痛むことがあり、だるさや微熱を伴うこともあります。続いて1〜3日のうちに発疹が現れ、からだの片側だけに帯のように赤い発疹が並び、やがて小さな水ぶくれになります。痛みは「電気が走る」「焼けるよう」と表現されることが多く、かゆみを伴う場合もあります。1〜2週間ほどでかさぶたになって乾いていきますが、発疹が治ったあとも痛みだけがしばらく残ることがあります。
原因は、子どもの頃にかかった水ぼうそうのウイルス(VZV)が、加齢や強いストレス、過労、持病などで免疫力が下がったときに再び活動を始めることにあります。日本人成人の約9割は水ぼうそうの既往があり、ウイルスは治癒後も神経に潜んでいますが、普段は問題を起こしません。再活性化すると、神経の走行に沿って片側に痛みと水ぶくれが出ます。[1]
湿疹やかぶれと間違えやすいため、片側だけ強く痛む、軽く触れても痛いといった特徴があれば、早めの受診をおすすめします。治療が遅れると痛みが長く残る(帯状疱疹後神経痛:PHN)ことがあるため、発症から72時間以内の受診と治療開始がとても大切です。[2]
帯状疱疹の痛みは、神経の中で眠っていた水ぼうそうのウイルスが再び動き出し(再活性化し)、神経そのものに炎症を起こすところから始まります。炎症が起きた神経は過敏になり、何もしなくてもピリピリ・ズキズキと痛んだり、衣服が触れる、風が当たるなどの軽い刺激でも強い痛みとして感じることがあります。
発疹が出ている皮膚にも炎症が起きるため、触れるだけで痛い、しみる、焼けるように痛むといった「皮膚の痛み」も現れます。水ぶくれが乾いてかさぶたになる過程でも皮膚の神経が刺激されやすく、冷たい空気や汗、入浴時のお湯、衣服のこすれで痛みが強くなることがあります。発疹が治った後もしばらくヒリヒリ感や過敏さが残ることがありますが、これは皮膚の表面の細い神経が回復するまで時間がかかるためです。
この強い痛みの信号が続くと、脊髄や脳の痛みを調節する回路も敏感になり、痛みを感じやすい状態が固定されやすくなります。これを中枢の過敏化(中枢性感作)といい、本来なら大したことのない刺激まで痛みとして感じてしまったり、発疹が治っても痛みだけが長引く原因になります。
炎症が強い場合には、神経の被膜(髄鞘)や電線にあたる部分(軸索)が傷つくことがあります。こうした神経の障害が残ると、刺激がなくても自発的に痛みが出たり、冷たさだけで痛むといった症状が続くことがあり、これが帯状疱疹後神経痛につながります。
また、自律神経(交感神経)の影響で血流が悪くなり、痛みが増すこともあります。交感神経の働きを一時的に抑える星状神経節ブロックなどが有効な場合があるのはこのためです。
まとめると、帯状疱疹の痛みは、神経の炎症と皮膚の炎症が同時に起こり、そこに神経の過敏化、中枢(脊髄・脳)の過敏化、さらには神経の損傷が重なって生じます。治療は、発症早期に抗ウイルス薬で炎症を抑え、痛み止めや神経痛の薬、必要に応じて神経ブロックで過剰な痛みの回路を落ち着かせ、痛みの長期化を防ぐことが重要です。
帯状疱疹はどの年代でも起こりますが、特に50歳を超えると発症がぐっと増えます。85歳までにおよそ2人に1人が経験するとされ、加齢に伴って「ウイルスに対抗する免疫の力(細胞性免疫)」が少しずつ弱まることが背景にあります。[3] 予防としてワクチンが50歳以上で推奨されており、費用助成は自治体によって対象年齢や金額が異なります。
一方で、近年は20〜40代の働き盛りや子育て世代でも発症が増えてきています。子どもの水ぼうそうワクチンの普及により、成人が日常生活の中でウイルスに触れて免疫を「更新」する機会が減ったことが一因と考えられ[4]、さらに睡眠不足、過労、強いストレスなどの生活要因も発症リスクを高めます。日本の住民を長期追跡した「宮崎スタディ」でも、15年間の観察で発症率が年々上昇していることが示されています。[5]
帯状疱疹の治療は「体内でのウイルス増殖を抑えること」と「神経の炎症と痛みを早期に制御すること」という二本柱で進めます。とくに早期から神経ブロックを適切に併用することは、強い痛みを速やかに下げ、睡眠や食事、日常動作を回復させ、さらに帯状疱疹後神経痛(PHN)への移行を抑えうることが示唆されています。[6]
原因ウイルス(VZV)の活動をできるだけ早く(理想は発症72時間以内)を開始します。内服(アシクロビル、バラシクロビル、ファムシクロビルなど)を基本に、重症例では点滴を行います。発疹や痛みの進行を抑え、治癒を早める効果が期待できます。
帯状疱疹の痛みは神経の炎症と感作が原因で、そのまま放置するとPHNという慢性痛に移行しやすくなります。初期からの強力な痛み対策が鍵です。薬物療法に加えて神経ブロック(当院では硬膜外ブロック、星状神経節ブロックなどを主に実施)を併用すると、末梢からの過剰な痛み入力と交感神経の関与を断ち、痛みの速やかな軽減とPHN抑制が期待できます。[6]
当院では、抗ウイルス薬と鎮痛薬に神経ブロックを積極的に組み合わせ、必要に応じて高周波パルス療法(PRF)や低出力レーザー治療も併用し、患者さん一人ひとりの痛みの機序と重症度に合わせて最適化します。なお、初期治療が遅れると有効率が下がることが報告されているため[7]、発症が疑われたら早期受診・早期介入が重要です。
帯状疱疹は誰にでも起こる可能性があります。予防としてワクチンがありますが、詳細は当院の「ワクチン案内ページ」でご紹介しています。ワクチン接種は、発症や重症化、PHNのリスクを減らせることが確認されています。[8]
帯状疱疹の発症は帯状疱疹ワクチンの接種による予防も有効です。当院ではワクチン接種も行っておりますので、希望される方はご相談ください。
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