頭痛
頭痛

「いつものことだから」と、つらい頭痛を市販の鎮痛薬で紛らわせて我慢してしまう方は少なくありません。しかし、習慣的な頭痛は生活の質(QOL)を大きく低下させる、きちんと向き合うべき「病気」の一つです。特に片頭痛は、若い世代の女性において最も生活への支障が大きい疾患の一つとも報告されています。[1]
頭痛には、脈打つような痛み、頭全体が締め付けられる重い痛み、目の奥がえぐられるような鋭い痛みなどさまざまなタイプがあります。痛みの性質や成り立ちは人によって異なりますが、原因に応じた治療を行うことで、長く続いていた頭痛が改善するケースは少なくありません。
当院では、薬物療法に加え、神経ブロックや自律神経へのアプローチなど、ペインクリニックならではの治療を組み合わせて、個々の患者様に合わせた頭痛治療を行っています。
頭痛は大きく「一次性頭痛」と「二次性頭痛」に分類されます。[3]
片頭痛、緊張型頭痛、群発頭痛、後頭神経痛、頚性頭痛など、脳の画像検査で明らかな原因がみられないタイプです。多くの「頭痛持ち」の方はこちらに該当し、ペインクリニックの専門領域です。
脳出血、脳腫瘍、髄膜炎など、別の疾患が原因となる危険な頭痛です。突然の激痛、神経症状、発熱を伴う場合などは緊急対応が必要です。
次の症状は、緊急性の高い二次性頭痛の可能性がある「レッドフラッグ」です。市販薬で様子を見るのではなく、ためらわずに医療機関を受診してください。
首や肩の「こり」が徐々に頭痛へつながるタイプで、頭全体を締め付けるような鈍い痛みが特徴です。ストレスや疲労が続くと自律神経が緊張し、肩や頚の筋肉がこわばります。この状態では筋肉内の血管が収縮して血流が低下し、酸素不足(虚血)となり、乳酸やブラジキニンなどの発痛物質が蓄積します。慢性的な「こり」を有する患者では筋微小循環の低下が知られており、自律神経の乱れが関与することも報告されています。血流低下→筋緊張→さらなる血流低下という悪循環が続くと、脳や脊髄が痛みに過敏になる「中枢性感作」が起こり、わずかな筋緊張でも強い痛みとして感じやすくなります。
治療としては、薬物療法に加えて星状神経節ブロック(SGB)により交感神経の緊張を和らげ、血流改善や筋緊張の軽減を図る方法があります。SGBは自律神経に直接アプローチでき、首肩のこりや関連する頭痛の軽減が報告されています。
ズキンズキンと拍動性に痛み、多くは頭の片側に生じます。吐き気、光・音過敏を伴い、日常生活に大きな支障をきたします。片頭痛は、三叉神経が過敏に反応し、血管拡張と神経原性炎症を引き起こす「三叉神経血管系」の異常が関与すると考えられています。[2]
治療はトリプタン製剤、CGRP関連薬、予防薬などが中心ですが、薬で十分な効果が得られない場合や薬を使いにくい場合には、SGBによる自律神経調整も治療選択肢になります。
一次性頭痛の中で最も痛みが激しく、「目の奥をえぐられるような」強い痛みが片側に起こります。涙、鼻水、眼の充血などの自律神経症状を伴います。群発期が周期的に訪れることから、体内時計を司る視床下部の機能異常が関与すると考えられています。[5]
治療は純酸素吸入やトリプタン皮下注などですが、自律神経反射が強く関与するため、SGBが試みられることもあります。
後頭部から頭頂部にかけて、電撃のような痛みが繰り返し生じます。後頭神経が筋緊張や姿勢不良によって圧迫されることで起こります。超音波ガイド下の後頭神経ブロックが有効です。[7]
頚椎や関節・筋肉の障害によって、首の痛みが「頭痛」として誤認されるタイプです。神経入力が脊髄で収束するために生じます。頚椎椎間関節ブロックや高周波治療が選択肢となります。
自律神経は体のあらゆる機能をコントロールしており、その乱れは血管の過度な収縮・拡張を引き起こし、頭痛の誘因となります。特に片頭痛・群発頭痛では、自律神経のアンバランスが深く関与します。
群発頭痛でみられる涙・鼻水といった症状も、自律神経の異常亢進による典型的な反応と言えます。[5] 多くの頭痛には自律神経の乱れが関与しており、必要に応じて自律神経への治療介入が重要となります。
星状神経節は、頭・顔・頚部・上肢の血流や交感神経を統合的に司る部位です。SGBはこの周囲に局所麻酔薬を注入し、一時的に交感神経の過活動を抑える治療です。[8]
難治性頭痛に対するSGBの有効性を示唆する報告は増えており[10,11,12]、薬物治療だけでは改善が不十分な場合の補助療法として検討されています。
現時点で片頭痛の標準治療ではありませんが、薬物療法が不十分な方、薬が使いにくい方には、エビデンスに基づき選択肢となる場合があります。[2,6]
頭痛は、脳・神経・血管・自律神経が複雑に関与する医学的疾患です。正しい診断と適切な治療を行うことで、「市販薬が手放せない毎日」から抜け出すことは十分に可能です。
薬で抑えきれない頭痛が続く方、天候に左右されやすい方、他院で経過観察のみと言われて不安を感じている方は、どうぞ一度ご相談ください。ペインクリニック専門医として、あなたと共に最適な治療方針をご提案します。
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