自律神経失調症ってなに？

自律神経失調症という言葉を聞いたことがある方は多いと思います。けれど自律神経っていったい何なんでしょう？いまいち実態がよくわからない方が多いんじゃないでしょうか。
自律神経とは運動神経や感覚神経などとは違い、頭部からつま先までネットワークを形成し、循環、体温、消化吸収（胃腸の動きや消化液の分泌）、代謝、ホルモンバランス、覚醒と睡眠のバランス調整、血流や筋緊張など、全身の恒常性を無意識に制御している神経系を指します。
自律神経失調症はストレスや過労、ホルモンバランスの変化などにより自律神経のバランスが崩れることが原因で起こると考えられています。自律神経失調症と言われる症状は多彩で、頭痛・片頭痛、首肩のこりやしびれなど痛みに関するものから、胸の締めつけ感、動悸、息切れ、めまい、手足の冷えや色調変化、腹部の不調（腹痛・下痢／便秘のくり返し）、睡眠の質低下や起床時のだるさ、全身の倦怠感、理由のはっきりしない痛みやしびれ、気分の波や不安感などの多様な症状が含まれます。自律神経失調症とは一つの診断名というよりは、さまざまな症状を表す症候名といった方が正しいかもしれません。
自律神経と慢性痛は大いに関連があると考えられています。痛みというストレスは自律神経緊張を起こし、結果として血流低下や筋緊張、神経の過敏状態を生み出し、これらがより痛みを増強してしまいます。[1]

自律神経失調症はなぜ起こる？

自律神経のアンバランスを招く要因には、慢性的な痛みの他にも、過度の疲労やストレス、睡眠不足や睡眠の質の低下（寝ても疲れが取れない）、生活リズムの乱れ、運動不足、ホルモンバランスの変化（更年期・月経関連）などがあります。
これらの要因が重なると自律神経が乱され、血流低下・筋緊張の亢進・腸の運動異常・夜間の覚醒増加が生じ、冷えやしびれ、肩こりや腰痛、腹痛や下痢、慢性的な疲労感などにつながります。

自律神経と慢性痛の関係

痛みやストレスが続くと、自律神経はリラックスできず常に緊張状態となります。すると末梢の血行が悪くなり、筋肉はこわばり、神経は刺激に対して過敏となってしまいます。その結果、痛みをさらに感じやすくなり、「痛み・ストレス → 自律神経緊張 → 血行低下・筋緊張 → 痛みの増強」という悪循環が起こります。[1]
また、脳には痛みを弱める“ブレーキ（下行性疼痛抑制）”があり、自律神経の緊張や睡眠の質低下といったストレスが続くと、このブレーキが効きにくくなり痛みが長引くことがあります。[2]

自律神経に対する治療アプローチ（星状神経節ブロック）

前述のとおり、自律神経は頭部からつま先までネットワークを形成して全身をカバーしています。その中でも首には、星状神経節というひときわ大きい交感神経の中枢があり、ここに対する治療を行う星状神経節ブロック（SGB）は、自律神経過緊張を緩和することができる神経ブロックのひとつです。自律神経を直接ターゲットにした治療法は多くありませんが、ペインクリニックでは以前より星状神経節ブロックを用いて、自律神経機能の乱れ（過緊張）の是正を目的とした診療を行ってきました。
当院では、適応と安全性を丁寧に評価したうえで、超音波ガイドで解剖と針先を可視化し、必要最小限の薬液で実施します。超音波ガイドは頸動脈／椎骨動脈などの血管損傷リスクを下げ、重大な合併症の回避に寄与することが報告されています。[6]

星状神経節ブロックの効果・経過・リスク

星状神経節ブロックには以下の効果が報告されています。

• 末梢血流の改善（手の冷え・色調の変化の緩和）
• 筋緊張の低下（首肩のこわばりの軽減）
• 痛みの閾値の改善（刺すような痛み・灼熱感などの緩和）
• 入眠前の高ぶりの軽減や、夜間の目覚めの減少がみられることがあります（個人差あり）

上肢の皮膚血流や灌流の改善効果は、質の高い臨床研究で実証されています。[4] 帯状疱疹の急性期治療においても、発症早期のSGB施行が疼痛の軽減と帯状疱疹後神経痛の予防に役立ったとする報告があります。[5]
星状神経節ブロックは10秒程度で終了し、その後は数分間の安静観察を行います。回数は1週間前後の間隔で数回を目安とし、効果に合わせて調整します。副作用として一過性の嗄声・眼瞼下垂・鼻閉などが起こりますが、ホルネル兆候と言って注射が成功している証拠でもあり、通常1時間程度で元に戻ります。まれですが、動脈損傷により血腫が形成されると気道が圧排され危険な状態になる可能性がありますが、超音波ガイドに星状神経節ブロックを施行することにより、こうした重篤合併症の発生リスクは低減できます。[3,6] 出血傾向・抗凝固療法中、局所感染、局所麻酔薬アレルギー、重い気道疾患などは慎重適応です。個々の状況を診察で確認し、施行可否を判断します。

星状神経節ブロックがおすすめの症状

次のような交感神経過緊張が関与している症状には、SGBが検討されることがあります。

• 寒さや緊張で悪化する手指の冷え・色調変化[4]
• 首や肩のこり・こわばり、片頭痛／緊張型頭痛[7,8]
• 非定型顔面痛[9]
• 帯状疱疹の痛み・灼熱感[5]
• 入眠のしづらさや夜間の中途覚醒などの自覚的な睡眠の質低下[7]

星状神経節ブロックは外来で施行可能で、所要は数分程度です。 効果には個人差があり、すべての方に有効とは限りませんが、診察で適応を丁寧に検討します。 自律神経の関与が疑われる症状でお困りの方は当院までご相談ください。

参考文献

1. Forte G., Troisi G., Pazzaglia M., Pascalis V., Casagrande M. Heart Rate Variability and Pain: A Systematic Review. Brain Sciences. 2022;12(2):153.
2. Hohenschurz-Schmidt D.J., Calcagnini G., Dipasquale O., et al. Linking Pain Sensation to the Autonomic Nervous System: The Role of the Anterior Cingulate and Periaqueductal Gray Resting-State Networks. Frontiers in Neuroscience. 2020;14:147.
3. Shan H.H., Tsai P.-B., Chen J.-Y., et al. Ultrasound-guided stellate ganglion block: Techniques, safety, and clinical applications. Frontiers in Surgery. 2022;9:797793.
4. Kim M.K., Kim J., Kim M., et al. Effect of stellate ganglion block on the regional hemodynamics of the upper extremity: A randomized controlled trial. Anesthesia & Analgesia. 2018;126(5):1705–1711.
5. Amr Y.M., Makharita M.Y. Early stellate ganglion blockade for acute herpes zoster of the face reduces pain and prevents postherpetic neuralgia: A randomized controlled trial. Pain Physician. 2012;15(6):467–474.
6. Narouze S. Ultrasound-guided stellate ganglion block: Safety and efficacy. Current Pain and Headache Reports. 2014;18(6):424.
7. Hou J., Pu S., Xu X., et al. The effect of stellate ganglion block on migraine: a retrospective cohort with patient-reported outcomes. BMC Anesthesiology. 2022;22:78.
8. Ueshima H. Stellate ganglion block for intractable tension-type headache: a case report. Journal of Clinical Anesthesia. 2019;54:149.
9. Jeon Y., Kim D. Atypical facial pain successfully treated with stellate ganglion block: a case report. Journal of Dental Anesthesia and Pain Medicine. 2015;15(1):35–37.